ミステリーとしての読みどころ
舞台はサーストン家の週末パーティーです。ホステスのメアリー・サーストンが二重に施錠された自室で殺害されるという不可能状況の密室殺人が発生し、村のビーフ巡査部長が捜査に着手します。やがて屋敷には、ピーター・ウィムジイ卿を思わせるサイモン・プリムソル卿、エルキュール・ポアロを思わせるムッシュー・アメール・ピコン、ブラウン神父を思わせるモンシニョール・スミスという三人の名探偵が次々に到着し、それぞれが自身の流儀で事件に挑むことになります。
本作の最大の趣向は、黄金期英国本格を代表する三大名探偵の語り口・思考法・身振りを徹底してパスティーシュしながら、彼らに同一の事件をめぐる複数の解決を競わせる多重解決の構造にあります。語り手はワトスン役のライオネル・タウンゼントで、彼の目を通して名探偵たちの推理ショーが順に披露されていく構成です。読者は、自分が親しんできた探偵たちの口調と論理が一冊のなかで再生され、しかも互いに食い違う真相を提示していく光景を味わえます。
ブルースは三大探偵への愛情ある模倣と、名探偵という存在への冷静な距離感とを同時に成立させており、結果として本作は単なるパロディに収まらず、名探偵小説そのものを批評する一種のメタ本格として機能しています。多重解決ものの古典、パスティーシュの古典、そしてシリーズ探偵ビーフ巡査部長の登場作という三重の意味で記憶されるべき一冊です。『このミステリーがすごい!』2000年版海外編第4位という評価も、本作が長く読み継がれてきたことを裏づけています。
派手なトリック単体の衝撃よりも、複数の名探偵による推理の重ね書きそのものを構造として楽しむタイプの作品です。黄金期英国本格の主要キャラクター造形にあらかじめ親しんでいる読者ほど、ニヤリとできる箇所が増える性質の本でもあります。小林晋訳の扶桑社ミステリー文庫版で読むことができます。