本格ミステリとしての読みどころ
英国南西部、ヒースに覆われたエクスムアの荒野。同級生たちが放課後にサッカーをしている時間に、12歳の少年スティーヴン・ラムはひとりシャベルを握り、誰にも言わないまま地面を掘り続けています。探しているのは、もう何年も前に行方を絶ったまま見つからない叔父の遺体です。叔父は連続児童殺人犯アーノルド・エイヴリーに連れ去られたまま帰らず、遺体が出てこない以上、祖母も母も今も家族の傷を閉じることができない——ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』は、この沈黙する荒野の場面から始まります。
著者ベリンダ・バウアーは、長年テレビの脚本家として活動した後、本作で小説家としてデビューしました。エクスムアを舞台にした連作(通称エクスムア三部作)の一作目にあたる本書は、現代英国ミステリで地名を一つの登場人物のように扱う書き手として、彼女の作風を決定づけた一冊です。
本作は2010年、英国推理作家協会CWAのゴールドダガー賞——その年最良の犯罪小説に贈られる最高位の賞——を獲得しました。デビュー作によるこの受賞は近年では非常に珍しく、英国ミステリ界で大きな話題となります。版元サイトや書評メディアの紹介でも「処女作によるゴールドダガー受賞」という事実が常に強調されており、現代英国ミステリの新世代を象徴する作品として位置づけられています。
物語の中心にあるのは、ある日スティーヴンが下す静かな決断です。彼は服役中のエイヴリーに手紙を書き始める——「叔父さんがどこに埋まっているか、教えてくれませんか」。子どもの拙い字で書かれた最初の一通から、刑務所の中の殺人犯と少年のあいだに、慎重で、ひりひりするような往復書簡が動き出します。一通ごとに言葉が試され、相手の出方が読まれ、子どもの世界と犯罪者の世界が、文字という細い橋の上で接触し始める。
舞台描写も本作の大きな読みどころです。霧と泥炭、低木と石灰岩のひろがる荒野、灰色の空。エクスムアの土地そのものが、家族の長い喪と少年の孤独を支える舞台装置として機能します。クリスティ系の閉鎖空間や時刻表の論理パズルとは別の場所に立つ作風ですが、土地と家族の沈黙を丹念に積み上げる構成は、英国ミステリの伝統的な厚みをきちんと受け継いでいるものです。
少年は何を引き出そうとしているのか。受刑者は何を見せ始めるのか。扇情的な暴力描写には頼らず、子どもの語りの純度をぎりぎりまで保ったまま、ぞっとする領域に踏み込んでいく——そういう種類の現代英国ミステリを探している人に、強くおすすめしたい一冊です。小学館文庫で入手できます。