本格ミステリとしての読みどころ
リチャード・オスマンの「木曜殺人クラブ」シリーズ第2作。原書は 2021 年 9 月にヴァイキングから刊行され、英国では発売後数日で十万部を超える売れ行きを見せた、シリーズの勢いを決定づけた一冊です。原題『The Man Who Died Twice』。
第1作の余韻が冷めやらぬクーパーズ・チェイスの面々——エリザベス、ジョイス、ロン、イブラヒム——のもとに届く一通の手紙が、本書の物語を起動します。差出人はエリザベスの元夫であるダグラス。MI5 のエージェントである彼は、業務中に高額のダイヤモンドが絡む厄介事を抱え込んでしまい、米国マフィアやその周辺の組織から追われる立場になって身を隠している、という告白付きの依頼です。エリザベス自身もかつて諜報の世界に身を置いていた人物で、その過去がここで本格的に物語の前面に出てきます。
事件はやがて殺人を呼び込み、四人組はリタイアメント・ヴィレッジの平穏な日常から、もうひとまわり広い舞台に踏み出していくことになります。第1作の地元警察コンビ、ドナとクリスも引き続き登場し、四人組と並走しながらそれぞれの視点で捜査を進めていく構図。組織絡みの大きな事件と、足元で起きる別の事件とが、シリーズらしい二層構造で動いていきます。
本書のもう一つの読みどころは、四人組の私生活の掘り下げです。イブラヒムが街中で痛ましい目に遭ってしまい、しばらく自室に引きこもってしまう——という重いエピソードが本筋と並行して走ります。仲間たちが彼にどう寄り添うか、そして彼自身がどう一歩を踏み出していくか、という流れは、第1作では届かなかった深さを持っています。エリザベスのパートナーであるスティーヴンの存在感や、ジョイスの日記パートで綴られる日常風景も、相変わらずシリーズの体温を支えています。
本格ミステリとしての構造はシリーズ前作と地続きで、容疑者の整理、動機の描き分け、終盤の謎解きまできちんと組まれています。第1作の「軽妙さの中の本格」というフォーマットを継承しつつ、舞台が広がったぶん登場する組織やキャラクターの数も増え、それぞれの線をきれいに束ねていく筆運びには手練を感じます。重たくなりすぎず、しかし第1作よりは少し本格的な「事件もの」の手応えに寄せてきている印象です。
入手は早川書房・ハヤカワ・ミステリ(羽田詩津子訳)。Kindle・Audible 版も流通しています。第1作『木曜殺人クラブ』(本サイト #0046)を読んでから進むのが断然おすすめで、四人組の関係性や地元警察コンビとの距離感の変化が、第2作で一段と楽しくなります。シリーズはさらに第3作『木曜殺人クラブ 逸れた銃弾』(原題 The Bullet That Missed, 2022)へと続いていきます。Netflix での実写映画化もシリーズの追い風になっており、まずは第1作・第2作を続けて読むのがちょうど良い入り口になりそうです。