本格ミステリとしての読みどころ
「この娘の周囲で男が死ぬ」——大道寺智子をめぐる噂はそういうものでした。伊豆の孤島・月琴島で育てられた彼女が18歳の誕生日を目前に東京へ移ろうとする前夜から、横溝正史の物語は始まります。雑誌『キング』で1951年6月〜1952年5月に連載された『女王蜂』は、金田一耕助シリーズの中でも「美しき因縁の娘」というテーマを正面から扱った作品です。
金田一耕助は智子の護衛という形で東京に向かいます。彼女の存在の背後には19年前の因縁がありました——学生時代の速水欣造と日下部達哉が月琴島を訪れ、日下部は島の娘・大道寺琴絵と関係を持ったが崖から落ちて死んだ。その結果生まれた子が智子です。19年後の現代、智子の帰京を境にして、過去の因縁を知るらしい人物たちが次々と命を落としていきます。
本作の推理構造の中心は「動機の解読」です。誰が、なぜ、智子の動きに連動して人を消そうとするのか——犯人の正体は過去の因縁と現在の利害の交差点に隠れています。『獄門島』の見立て構造や『犬神家の一族』の遺産争いとは異なり、本作は「過去の秘密がなぜ今になって暴力を呼ぶのか」という時間軸の謎を主軸に据えています。
智子という人物造形は横溝の美学の典型で、無垢さと呪われた運命の組み合わせが物語に独特の緊張を与えています。この種の「美しく呪われた女性」を中心に置く構造は、後の横溝作品にも繰り返し現れるモチーフです。
金田一耕助シリーズの中で「あと一歩の傑作」として語られることもありますが、動機推理本格として完成度は高く、横溝の幅の広さを知るためには読む価値がある一冊です。劇場版映画は1952年(松田定次監督)と1978年(市川崑監督・石坂浩二主演)の2作、加えて5作のテレビドラマ化が、この作品の根強い魅力を物語っています。角川文庫(1973年文庫化)。