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INTRO · 作品紹介
N° 103 · 2026-05-08
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暗色コメディ

連城三紀彦 / 双葉社(双葉文庫)
" 四つの狂気が一つの絵に結ぶ。連城三紀彦の処女長編、伊坂幸太郎が惚れ込んだ本格の傑作です。
AI 📝 AI 書評 この記事は AI が生成し、ネタバレチェックを通過したものです ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
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本格ミステリとしての読みどころ

窓の外に「もう一人の自分」を見てしまった主婦。自分を轢き殺したはずのトラックの方が忽然と消えてしまった画家。家に帰ると妻から「あんたは一週間前に死んだ」と告げられる葬儀屋。ある朝目覚めたら、隣にいる妻が別人にすり替わっていることに気づいた外科医——『暗色コメディ』は、こうした四人の「自分の認識のほうがおかしいのか、世界のほうが狂っているのか」と問わずにはいられない状況から物語を開きます。

著者の連城三紀彦(1948-2013)は、1978年に短編「変調二人羽織」で第3回幻影城新人賞を受賞してデビュー。本作はその翌年、1979年6月に幻影城ノベルスから刊行された処女長編です。後年の連城は『戻り川心中』(直木賞候補・吉川英治文学新人賞)で短編の名手としての地位を確立し、『恋文』で直木賞、『隠れ菊』で柴田錬三郎賞を受賞するなど、本格ミステリの枠を超えて文学的評価を高めていきますが、その出発点近くに置かれた長編が本作にあたります。

刊行をめぐる事情も独特です。本作は幻影城ノベルスの一冊として世に出たものの、出版とほぼ同時に版元の幻影城が倒産してしまい、長らく入手困難な「幻の長編」となっていました。後年に文春文庫などで復刊された時期もありますが、現行の入手しやすい版は、伊坂幸太郎の熱望によって2021年に双葉文庫から出された新装版です。伊坂は「この小説に挑戦するつもりで『ラッシュライフ』を書いた」と公言しており、現代作家への影響の大きさからも、本作が連城本格の核に触れる一作だということが伝わってきます。

物語は四つの独立した狂気として始まります。当初これらの章は完全に切り離されているように見え、それぞれの当事者が困惑し、追い詰められ、自分なりの答えを求めて動いていきます。「暗色コメディ」というタイトルが示すとおり、不条理で混乱した状況にはどこか奇妙な可笑しみが漂い、読者は笑いと不安をないまぜにしながらページをめくることになります。

そしてある瞬間から、四つの絵が重なり始めます。並走していたエピソードが一つの構図へと収斂していくとき、ばらばらだった狂気が「ここまで全部、こう繋がっていたのか」という形で配列し直されていく——その一枚の絵に解像する瞬間こそが本作の核心です。個別の不可解を順番に解くのではなく、不可解の組み合わせ自体が全体として一つの謎を形成している、という設計は、本作の到達点としてミステリ史にも語り継がれる種類のものでしょう。

連城三紀彦が短編で示した「前提を崩して景色を変える」叙法を、長編サイズの構造として実装してみせた一冊です。短編集『戻り川心中』(0098)と並べて読むことで、長短両方で同じ方向を探り続けた連城の本格観の輪郭が見えてきます。双葉文庫の新装版で手に入りやすくなった今こそ、本格の歴史的一作に触れる好機です。

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書誌情報

出版社
双葉社 / 双葉文庫
原書刊行年
1979
邦訳刊行年
2021
ISBN-13
9784575524611
系譜
戦後昭和国内