ミステリーとしての読みどころ
クリスチアナ・ブランドの短編から選り抜き16編を、序盤にコックリル警部ものを置き、中盤にノン・シリーズの本格短編、終盤に犯罪小説風味の小品を並べる5部構成で配したベスト・コレクションです。原書は1983年に米国 Southern Illinois University Press の Mystery Makers シリーズの一冊として、フランシス・M・ネヴィンズと マーティン・H・グリーンバーグの編によって編まれ、ロバート・E・ブライニーによる序文が付されました。邦訳は深町眞理子の手で創元推理文庫から刊行されています。
冒頭の「コックリル警部のカクテル」と題された四編は、長編で知られる老警部の短編登場作をまとめた章で、「事件のあとに」「血兄弟」「スズメバチの巣」「カップの中の毒」が並びます。続くアントレ部では「ジェミニー・クリケット事件」「スケープゴート」「もう山査子摘みもおしまい」が収められ、とりわけ「ジェミニー・クリケット事件」は同一状況に対する複数の解決を提示する多重解決短編として、日本の本格短編史でも繰り返し参照される一編です。後半は「スコットランドの姪」「ジャケット」「メリーゴーラウンド」「目撃」「バルコニーからの眺め」「この家に祝福あれ」「ごくふつうの男」「囁き」「神の御業」と、ノン・シリーズ作品が並びます。
ブランドの長編で味わえる「真相がもう一段降りるたびに事件の景色が変わる」感触を、短編の制約のなかで凝縮した点に本書最大の魅力があります。物理的な大仕掛けより、同じ手掛かりの読み替えによって犯人像と動機を反転させる方向の趣向が中心で、密室趣味とは別系統の本格的驚きを求める読者にも適します。短編集の常として粒の揃いには差がありますが、本格パズラーから皮肉な犯罪小品まで振れ幅のあるブランドの短編世界を一冊で俯瞰できる点で、入門書としても座右の選集としても価値の高い一冊です。