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REVIEW · 書評
N° 066 · 2026-05-05
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現代英国 ★ イチオシ

キュレーターの殺人

M.W.クレイヴン / 早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
" クリスマスのカンブリアで、切断された指が街のあちこちに「展示」される。シリーズ第3作にして大化け。
#英国警察の重厚#凸凹コンビ#不器用な刑事
📝 管理人イチオシ書評 管理人実読・本サイト基準でイチオシ判定 ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
curator's read

本格ミステリとしての読みどころ

M・W・クレイヴンのワシントン・ポー&ティリー・ブラッドショウ・シリーズ第3作。原書は2020年刊行、原題『The Curator』、邦訳は早川書房・ハヤカワ・ミステリ文庫から2022年に東野さやか訳で刊行されました。シリーズの中でも特に評価が高い一冊として紹介されることが多く、書評メディアでは「3作目で大化けした」と評されている話題作です。

物語の発端は、クリスマスシーズンの英国カンブリア州。切断された人間の指が街のあちこちで「展示」されるかのように発見されます。プレゼントのマグカップの中、ミサが行われた教会の中、そして精肉店の店内——意表を突く場所に次々と置かれており、現場には「#BSC6」という謎めいた文字列が残されている。芸術的とすら言えるグロテスクな状況設定で物語が始まります。

捜査の中心は国家犯罪対策庁(NCA)の刑事ワシントン・ポー。今回は同庁のステファニー・フリン警部、分析官ティリー・ブラッドショウとともに、犠牲者の身元を辿りつつ、事件の背後に潜むという巨悪「キュレーター(The Curator)」の正体を追っていきます。指の数だけ被害者がいるのか、その指が誰のもので、本体はどこにあるのか——次々と立ち上がる謎を、シリーズおなじみの凸凹コンビが解いていく構図です。

ワシントン・ポーは本書では特に冷静かつ熱意ある刑事として描かれます。第1作の停職処分、第2作での過去の捜査との対決を経て、本書ではポーが捜査官として一段成熟した姿を見せます。ティリー・ブラッドショウとの凸凹バディも、第3作にして洗練された呼吸の合い方を見せ、シリーズ初期にはなかった阿吽の関係が立ち上がります。

カンブリア州のクリスマスシーズンという舞台立ても本書の魅力の一つ。雪、冷気、教会の鐘、家族で過ごす時期の空気——これらと、街のあちこちで人間の指が「展示されている」という事件の異常さが、強烈なコントラストを生み出します。クレイヴンの地方描写の腕前は本書でも健在です。

本格ミステリとしての構造もシリーズ前作と同等以上に堅牢。猟奇的な事件設定の下で、論理的に組み立てられた推理ゲームが進行する——警察ミステリと本格ミステリの境界線で、両方の良さを引き出した書きぶりです。シリーズの代表作として本書を挙げる読者は少なくありません。

シリーズは『ストーンサークルの殺人』『ブラックサマーの殺人』『キュレーターの殺人』『グレイラットの殺人』『ボタニストの殺人』と続いており、本書は中盤の山場を成す巻。第1〜2作を読んできた方には、シリーズの絶頂期を体験できる一冊として強くおすすめします。

ハヤカワ・ミステリ文庫(東野さやか訳)で容易に入手でき、Kindle 版もあります。

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書誌情報

出版社
早川書房 / ハヤカワ・ミステリ文庫
原書刊行年
2020
邦訳刊行年
2022
ISBN-13
9784151842535
系譜
現代英国