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REVIEW · 書評
N° 013 · 2026-05-05
エッジウェア卿の死 表紙画像
黄金期英国古典 ★ イチオシ

エッジウェア卿の死

アガサ・クリスティー / 早川書房(クリスティー文庫)
" 米国人女優が夫との離婚を望むやいなや夫が殺害される、社交界を舞台にしたポアロ長編。
#黄金期の薫り#名探偵に身を任せる
📝 管理人イチオシ書評 管理人実読・本サイト基準でイチオシ判定 ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
curator's read

本格ミステリとしての読みどころ

米国出身の人気女優が、英国貴族の夫との離婚を望んでポアロに仲介を依頼する。その翌朝、夫が自宅で死体となって発見される——という、ロンドン社交界を舞台にしたポアロ長編が本書『エッジウェア卿の死』です。

著者は1890年生まれの英国作家アガサ・クリスティー。本書はポアロ・ヘイスティングス・ジャップ警部のお馴染みのトリオが揃って登場する一冊で、英国では1933年9月に Collins Crime Club から、米国では同年 Dodd, Mead 社から『Thirteen at Dinner(十三人の晩餐)』というタイトルで刊行されました。

物語の入り口は、ロンドンの劇場。物まね芸を得意とする米国出身の女優カーロッタ・アダムズの公演を観たポアロが、終演後にスター女優ジェーン・ウィルキンソンから声をかけられる、という場面から始まります。彼女は英国貴族エッジウェア卿の妻で、別の男性との再婚を望んで卿との離婚を求めているが、卿は応じない——というのが、ポアロが受ける相談です。翌朝、ジャップ警部から卿が自宅で刺殺されたという報せが届くところから、本格的な捜査が始まります。

執筆の発端について、クリスティは自伝の中で米国の女性独演劇作家ルース・ドレイパーの公演を観たことを挙げています。「彼女がいかに巧みで、人物の物まねがどれほど見事だったかを考えていたら、本書の構想に至った」という趣旨の述懐で、本作の人物造形と筋立てに、その公演体験が下敷きになっていることが分かります。

読みどころは、ロンドン社交界の華やかな人物模様と、ポアロが集めていく証言の地味な積み重ねの対比です。劇場の人気女優、英国貴族、米国富裕層、舞台俳優——表の顔と裏の顔を持つ人物たちのなかから、ポアロが言葉と仕草の小さなずれを拾い上げて推理を組み立てていきます。手がかりが「赤の他人の何気ないひと言」から立ち上がってくる場面が印象的に組み込まれており、刊行当時の書評でも「巧妙(ingenious)」と評されました。

入手は早川書房クリスティー文庫の福島正実訳が現行流通しており、紙書籍・電子書籍ともに容易です。Audible 版も用意されています。ポアロ・ヘイスティングス・ジャップのトリオが揃ったポアロ長編を読みたい方、ロンドン社交界を舞台にした黄金期英国本格が好きな方におすすめできる、中期ポアロの一冊です。

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書誌情報

出版社
早川書房 / クリスティー文庫
邦訳刊行年
1955
ISBN-13
9784488015459
系譜
黄金期英国古典