本格ミステリとしての読みどころ
クリスティの『そして誰もいなくなった』(1939年)は、互いに無関係な10人が孤島に集められ、一人ずつ殺されていく構造で本格ミステリの一形式を確立しました。本書はその構造を現代アメリカに移植し、「孤島」という物理的閉鎖空間を「見知らぬ9人という謎の繋がり」に置き換えた作品です。物理的に集めなくても、リストの存在そのものが彼らを共通の運命に縛りつけてしまう——この置き換えが本作の出発点になっています。
マサチューセッツの郊外に住む父親、ロサンゼルスで夢を追う俳優、テキサスのシンガーソングライター、FBIエージェント——それぞれ全く無関係の9人のもとに、同じ内容の封筒が届きます。中には9人の名前のリストだけがあります。差出人も理由も書かれていません。翌日、リストの一人としてメイン州ケニーバンクで暮らす老人が、海岸で溺死しているのが発見されます。
FBIエージェントのジェシカ・ウィンズローはリストを受け取った一人でもあります。彼女は捜査官の視点と、自らがリストに載せられた当事者の視点の両方から、9人を結ぶ接点を探し始めます。9人は互いを知らない——なぜ同じリストに自分の名があるのか。問いそのものが彼女を動かす推進力になります。
スワンソンが本書で取り組むのは、「なぜこの9人が選ばれたのか」というクリスティ的設問の現代的更新です。一人また一人とリストの人物が倒れていくたび、読者はリストそのものの意味を読み解こうとさせられます。クリスティ的な「誰が次に死ぬか」というサスペンスと、現代スリラーの語り口が無理なく結びついている点が見どころです。
同じスワンソンの『そしてミランダを殺す』(0115)・『8つの完璧な殺人』(0118)と合わせて読むことで、著者が「ミステリの既存の枠組みをどう変奏するか」という一貫した関心を持つ作家であることがよく分かります。創元推理文庫(2025年)。