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REVIEW · 書評
N° 029 · 2026-05-05
その裁きは死 表紙画像
現代英国 ★ イチオシ

その裁きは死

アンソニー・ホロヴィッツ / 東京創元社(創元推理文庫)
" 著名な離婚弁護士が高額ワインで殴打された奇妙な殺人。ホーソーン&ホロヴィッツ第2作。
#クリスティの末裔#週末をまるごと溶かす
📝 管理人イチオシ書評 管理人実読・本サイト基準でイチオシ判定 ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
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本格ミステリとしての読みどころ

アンソニー・ホロヴィッツのホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ第2作。原題『The Sentence Is Death』、原書は 2018 年11月刊。第1作『メインテーマは殺人』で確立された「著者本人がワトスン役として作中に登場する」という異色のメタ構造を継承しつつ、シリーズの呼吸が本格的に整っていく一冊です。

著者はアンソニー・ホロヴィッツ。シリーズ全体の枠組みや著者の経歴については第1作の書評をご参照ください。本書ならではの読みどころは、ホーソーンとホロヴィッツのバディ関係が前作で確立されたうえで、二人の距離が少しずつ動き出す点にあります。前作で振り回されていた語り手のホロヴィッツが、本書では捜査の現場に多少慣れてきて自分なりの推理を披露する場面が出てきます。一方のホーソーンは相変わらず素性を明かさない謎の多い男のまま——シリーズを通してこの男の輪郭が少しずつ漏れていく、という長期的な仕掛けが、本書からじわりと動き始めます。

事件の中心人物は、ロンドンの著名な離婚弁護士リチャード・プライス。自宅で高額のワインボトル——1982 年もののシャトー・ラフィット——で殴打されて死亡しているのが発見されます。被害者は普段アルコールを口にしない人物だったのに、なぜわざわざこの一本が凶器に選ばれたのか。さらに現場の壁には、緑色のペンキで「182」という数字が荒々しく書き残されていました。この奇妙な手がかりからホーソーンとホロヴィッツの捜査が始まる——というのが本書の入り口です。

本格としての構造は、第1作と同じく堅牢です。容疑者の整理、動機の組み立て、伏線の張り方、終盤の解明——古典本格の段取りを踏襲したうえに、「メタ構造の遊び」と「軽妙なバディの会話」を重ねる、シリーズの基本フォーマットがしっかり機能しています。ホロヴィッツが容疑者の心情を物語的に読みすぎてホーソーンに諌められる、といったくだりは、本シリーズの通奏低音であるバディ・コメディの妙が光る場面です。

ロンドン現代社交界の舞台描写も読みどころ。離婚弁護士業界、富裕層の依頼人、法曹界の人間関係——現代英国の階級社会の細部が、ホロヴィッツの観察眼で書き分けられており、「現代英国を舞台にした本格ミステリ」として手触りのよい一冊になっています。

日本語版は東京創元社・創元推理文庫(山田蘭訳)、2020 年9月刊。Kindle 版もあり入手は容易です。第1作『メインテーマは殺人』を読んでから本書に進むのが理想ですが、本書単独でも本格ミステリとして十分楽しめます。シリーズはこの後『殺しへのライン』『ナイフをひねれば』『死はすぐそばに』と続いていきます。

ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズに馴染み始めた頃に読むと、二人の関係の進展が一段と楽しめる一冊。軽妙なバディものが好きな方、現代英国の階級社会を背景にした本格ミステリに興味のある方、シリーズを順に追っていきたい方——シリーズの呼吸が安定してくる重要な第2作です。

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書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
邦訳刊行年
2020
ISBN-13
9784488265106
系譜
現代英国