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REVIEW · 書評
N° 190 · 2026-05-10
赤毛のレドメイン家 表紙画像
黄金期英国古典

赤毛のレドメイン家

イーデン・フィルポッツ / 東京創元社(創元推理文庫)
" ダートムアからコモ湖畔へ。レドメイン家三兄弟を巡る奇怪な失踪と殺害の連鎖。乱歩ベスト1位。
#黄金期の薫り
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📝 書評 世評・資料をもとに、当サイトの選書基準で構成した書評です ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
review notes

ミステリーとしての読みどころ

1922年刊行、イーデン・フィルポッツが残した英国黄金期の代表的本格長編です。江戸川乱歩が「万華鏡」と評し、自選の探偵小説ベスト10に第1位として推した一作で、英国本格の古典として日本でも長く読み継がれてきました。アガサ・クリスティが愛読を公言したことでも知られています。

物語の幕開けはイングランド南西部、霧深いダートムアの荒野です。休暇で釣りを楽しんでいたスコットランド・ヤードの敏腕警部マーク・ブレンドンは、赤毛の美しい女性ジェニー・ペンディーンと偶然出会い、その印象に強く心を奪われます。しかしわずか数日後、彼女の夫マイケルが義叔父ロバート・レドメインとの作業の最中に姿を消し、現場には大量の血痕と、バイクで走り去る赤毛の男ロバートの目撃証言だけが残されました。被害者の死体はどこにもなく、容疑者ロバートもまた行方を絶ってしまいます。

捜査はやがて霧深いデヴォンの荒野から、陽光あふれるイタリア・コモ湖畔へと舞台を移します。レドメイン家の三兄弟——ロバート、ベンディゴ、アルバート——を巡って、奇怪な失踪と殺害がさらに連鎖していく構図のなかで、ブレンドンは捜査の方向性に行き詰まりを覚えるようになります。そこへ、半ば引退したアメリカ人の老探偵ピーター・ガンズが姿を現したとき、事件はようやく本来の貌を見せ始めます。

本作の魅力は、舞台と語り口の幅の広さです。ダートムアの陰鬱な荒野と、コモ湖畔の南欧的な明るさが交互に描かれ、物語の色調そのものが事件の進展とともに鮮やかに転じていきます。英国警察捜査の堅実さと、アメリカ人探偵の柔軟な視点が対をなすことで、捜査小説としても重層的な厚みが生まれている点も読みどころです。

トリックのアクロバットで圧倒するというより、連続して起こる失踪と目撃証言の積み重ねが、読者の認識を少しずつずらしていく構成の巧みさが光ります。乱歩が「万華鏡」と呼んだ所以は、まさにこの「同じ光景が見方を変えるたび姿を変える」感触にあるのでしょう。古典らしい優雅な語りに身を委ね、登場人物の証言と風景の変化を丁寧に追うほど、終盤の眺望が鮮やかになります。

邦訳は宇野利泰訳、創元推理文庫で長く読み継がれており、現在も入手は容易です。シリーズ前提なしで読める単独長編なので、英国黄金期本格の引き出しを広げたい読者にも、フィルポッツに初めて触れる読者にも、安心して薦められる一冊です。

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書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
原書刊行年
1922
系譜
黄金期英国古典 / 名探偵もの