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INTRO · 作品紹介
N° 079 · 2026-05-08
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黄金期米国古典 AI

Xの悲劇

エラリー・クイーン / 東京創元社(創元推理文庫)
" 満員の路面電車で起きた毒殺、誰も犯人を見ていない。レーン四部作幕開けの論理劇。
AI 📝 AI 書評 この記事は AI が生成し、ネタバレチェックを通過したものです ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
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本格ミステリとしての読みどころ

ニューヨークの路面電車。ラッシュアワーの満員の車内で、株式仲買人ハーリー・ロングストリートが命を落とします。毒が用いられたこと、そしてその凶器がコルク球に仕込まれた毒針という奇妙なものであったことはすぐに判明しました——けれども、誰が手を下したのかを見た者はいなかったのです。エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で書いたドルリー・レーン四部作の第1作(1932年)は、この鮮烈な状況から幕を開けます。

著者の「エラリー・クイーン」はフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの従兄弟コンビによる合作ペンネームで、当時すでに国名シリーズで本格ミステリ界の頂点に立っていました。1932年だけで『ギリシャ棺の謎』『エジプト十字架の謎』を発表する尋常ならざる多作期、彼らはもうひとつのシリーズを別名義で同時並行に立ち上げます。それがこの「バーナビー・ロス」名義のドルリー・レーン四部作です。当初は別人作家として売り出され、ダネイとリーがそれぞれ「ロス」と「クイーン」を名乗って公開対談を行うという宣伝戦略まで採られました。実は同じ二人組の自作自演だったというのが、現在では広く知られています。

探偵役のドルリー・レーンは、ハドソン川沿いの邸宅「ハムレット荘」に隠棲する元シェイクスピア俳優。耳が聞こえなくなったため舞台を退きましたが、唇の動きを読む特技と、長年舞台で培った人間観察の鋭さは健在です。タム警部が事件の経緯を語り終えると、レーンは早くも見立てをつけているような物腰を見せる——けれども、証拠が揃うまで彼は名前を口にしません。手がかりの吟味と推理の積み上げが進み、読者と探偵が同じ材料を眺めながら結論へ歩んでいく、いかにもクイーン=ロスらしい誠実な論理推理が貫かれています。

ドルリー・レーン四部作は本作『Xの悲劇』(1932)に始まり、『Yの悲劇』(1932)、『Zの悲劇』(1933)、『レーン最後の事件』(1933)と続いて完結する、短期集中型のシリーズです。X→Yの順で読むのが定番で、シリーズを通して読むことで、レーンという人物の深度と、二人組が到達した論理推理の完成度を体感できます。クイーン・ファンクラブ会員投票では本作はクイーン長編ランキング第2位に挙げられるなど、現代の読者にも支持されてきた古典でもあります。

入手は東京創元社の創元推理文庫が最も手に取りやすい形です。中村有希訳による新訳版が2019年に刊行されており、古い訳に親しんだ読者でも、自然な日本語で読み直すと印象が変わるかもしれません。『Yの悲劇』とセットで書棚に並べておきたい一冊です。

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書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
原書刊行年
1932
邦訳刊行年
2019
ISBN-13
9784488104436
系譜
黄金期米国古典 / 名探偵もの · シリーズ探偵物