本格ミステリとしての読みどころ
タイトルが示す通り、本作は本格ミステリでありながら同時に「舞台劇」として組み立てられた一冊です。原書は 1934 年に米国で『Murder in Three Acts』として、翌 1935 年に英国で『Three Act Tragedy』として刊行されました。同じ 1934 年には『オリエント急行の殺人』も発表されており、クリスティ中期の充実ぶりがうかがえる時期の作品です。
著者はアガサ・クリスティー。物語は三つの「幕」に分かれて進行する構成を採っており、舞台用語をそのままタイトルに用いるところに、本作のたたずまいがあらわれています。
物語の発端は、引退した俳優が主催する晩餐会です。出席者の中の穏やかな村の牧師が、その席上で突然の死を遂げます。当初は事件性が見えにくいまま終わりかけるところに、しばらく後、別の場所で似たような状況下の死が起こり、物語が改めて動き出します。
本作のひとつの面白さは、探偵役の構成にあります。クリスティ長編の中でも珍しく、サタースウェイト氏がポアロと並んで事件に関わるかたちで物語が進んでいきます。サタースウェイト氏は短編集『謎のクィン氏』でおなじみの登場人物で、ポアロ長編に彼が関わるのは本作だけです。中心人物となる引退俳優、そしてポアロとサタースウェイトという三者の視点が交差することで、独特の重層感が生まれています。
「三幕」というタイトルは構成上の比喩であると同時に、物語そのものが演劇的に組み立てられていることを示しています。本格ミステリの伏線→展開→解決のリズムが、舞台劇の幕割りと重なり合うように設計されている。なお、本作は米国版で犯人の動機の細部が変更されており、研究者のあいだでもときおり話題にされる作品です(本文の大筋には影響しません)。1935 年にはクリスティ作品で初めて初年度 1 万部を超えた一冊でもあり、当時から人気の高い長編でした。
日本では早川書房クリスティー文庫(長野きよみ訳)で容易に入手でき、Kindle 版も用意されています。『オリエント急行』『ABC 殺人事件』といった代表作を読み終えて、もう少し中期のポアロ長編に踏み込んでみたい方に向く一冊です。舞台劇的な構成と、サタースウェイト氏というやや風変わりな同行者を伴ったポアロの推理を、ゆったりと楽しんでみてください。