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REVIEW · 書評
N° 007 · 2026-05-05
検察側の証人 表紙画像
黄金期英国古典 ★ イチオシ

検察側の証人

アガサ・クリスティー / 早川書房(クリスティー文庫)
" 表題作は法廷劇短編の古典。クリスティの短編11編で「もう一つの顔」に出会える。
#黄金期の薫り#名探偵に身を任せる
📝 管理人イチオシ書評 管理人実読・本サイト基準でイチオシ判定 ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
curator's read

本格ミステリとしての読みどころ

ポアロ長編やマープル長編からクリスティに入った方が、ある段階で「短編もすごいらしい」と気づくことがあります。本書はその気づきを確かめるのに格好の一冊で、表題作「検察側の証人」を含む短編集です。

著者アガサ・クリスティーは1890年に英国デヴォン州トーキーで生まれ、1920年の長編『スタイルズ荘の怪事件』でデビュー。長編で世界的な名声を築いた一方、雑誌掲載の短編にも息の長い仕事を残しました。表題作「検察側の証人」もそのひとつで、1925年に米国の雑誌『Flynn's Weekly』に発表されたのが初出です。

その後、表題作は1933年の英国短編集『死の猟犬(The Hound of Death)』などに収録されたのち、米国では1948年に Dodd, Mead から『The Witness for the Prosecution and Other Stories』として11編をまとめた版が刊行されました(英国側の既刊短編集との収録重複から、英国では同名の単行本としては刊行されていないという来歴をもつ一冊です)。日本では早川書房クリスティー文庫の加藤恭平訳で読むことができます。

表題作は法廷を舞台にした短編で、のちにクリスティ自身の手で戯曲化されてロンドンで大ヒット、ビリー・ワイルダー監督の映画化(1957、チャールズ・ロートン主演)でも世界的に知られるようになりました。短編・戯曲・映画と、媒体を変えて長く生き続けている一作です。本書は表題作のほか、サスペンス寄りの作品から幻想色のあるものまで、クリスティの引き出しの広さを覗ける編成になっています(うち「The Second Gong」一編にのみポアロが登場)。

ポアロ・マープルの定番路線とは少し角度の違う面を見せる短編群なので、長編をいくつか読んだあとの「もう一つのクリスティ」入門として向きます。寝る前に一編、通勤の往復で一編、という読み方にもよく馴染みます。

入手は早川書房クリスティー文庫の紙書籍と、Kindle 版が安定して提供されています。長編の名作を堪能したあとに、表題作という法廷劇短編の古典に触れてみたい方、クリスティの長編シリーズの周辺をもう少し広く探りたい方に、おすすめできる一冊です。

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書誌情報

出版社
早川書房 / クリスティー文庫
邦訳刊行年
2004
ISBN-13
9784151300677
系譜
黄金期英国古典