本格ミステリとしての読みどころ
シリーズ第1作『そして五人がいなくなる』に続く、名探偵夢水清志郎の活躍を描く一冊です。1994年に講談社青い鳥文庫から刊行されました。
著者のはやみねかおるは、三重県伊勢市生まれ、三重大学教育学部数学科卒、元小学校教師。1989年に「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞 佳作入選でデビューし、本シリーズで日本のジュニア向け本格ミステリの定番作家として認知されることになりました。第1作刊行と同年に本書を発表しており、勢いのある時期に書かれた一冊です。
物語の舞台は、岩崎三姉妹(三つ子の亜衣、真衣、美衣)が通う虹北学園。学園祭を目前に控えたある日、学園に古くから伝わる伝説が現実に蘇り始めます。時計台の鐘が突然鳴り響き、校庭には謎の巨大な魔法円が出現し、亡霊からのメッセージが校内放送で流れる——次々と起こる怪事件が、学園祭の準備を進める三姉妹を巻き込んでいきます。
本書を読むときの楽しみは、学園祭という日常の延長線上に怪奇現象が侵入してきて、それを夢水清志郎が論理で一つずつ「日常」に引き戻していく構図にあります。「学園に伝わる伝説」「亡霊からのメッセージ」というオカルト風の枠組みを、本格ミステリの作法でロジカルに解体していく書きぶりは、シリーズの基本フォーマットの一つ。怪奇趣味と論理推理の対比は、英国本格(『バスカヴィル家の犬』など)の伝統にも連なるもので、児童向けでありながら本格としての骨格はしっかりしています。
シリーズの基本要素である夢水清志郎の物忘れ・マイペースぶりと、岩崎三姉妹の語り口の軽妙さは本書でも健在。学園祭という賑やかな舞台が、シリーズおなじみの掛け合いに彩りを添えています。三姉妹それぞれのキャラクターの違い(長女・亜衣の語り手としての落ち着き、真衣のキャラクター、末妹・美衣の天文好き)も、本書あたりで読者にしっかり馴染むはずです。
文体は極めて読みやすく、児童向け文庫らしくルビも豊富。ただし本格ミステリとしてのロジックの組み立ては丁寧で、子ども向けと侮れない一冊です。シリーズの順番で読むなら本書は早いほうの巻にあたるので、第1作『そして五人がいなくなる』の次に手に取るのに向いています。
講談社青い鳥文庫で容易に入手でき、Kindle 版もあります。学園もの・伝説もののミステリが好きな方、夢水清志郎シリーズを順番に追いかけたい方、子どもの頃に出会えなかったジュニアミステリを大人になって読み返したい方——いずれにも届く一冊です。