本格ミステリとしての読みどころ
「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズ第3作。1995年に講談社青い鳥文庫から刊行されました。シリーズが軌道に乗った時期に書かれた一冊で、舞台を孤島へと移したスケールの大きな事件が描かれます。
著者のはやみねかおるは、三重県伊勢市生まれ、三重大学教育学部数学科卒、元小学校教師。1989年「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞 佳作入選でデビュー。本シリーズと並行して「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」など複数のシリーズを長年書き継いでおり、ジュニアミステリの第一人者として知られています。
物語の舞台は、孤島・総生島。岩崎三姉妹(三つ子の亜衣、真衣、美衣)が映画撮影の案件で島へ招かれ、夢水清志郎博士たちもクルーザーで島に向かうところから始まります。撮影は順調に進むかに見えるのですが、呪われた孤島では奇妙な事件が次々と起こり始める——人が消え、山が消え、建物が消え、ついには島そのものが消えていく、という不可思議な現象に三姉妹と夢水清志郎が巻き込まれていきます。
本書を読むときの楽しみは、「孤島もの」と「消失もの」を組み合わせた大胆な事件設定にあります。クローズドサークル(孤島)という本格ミステリの王道枠と、「島自体が消える」という派手な不可能犯罪を、児童向けのフォーマットで両立させているのが本書のチャレンジ。シリーズおなじみの夢水清志郎の物忘れぶりと、岩崎三姉妹の軽妙な掛け合いが、孤島の閉塞感に風通しを与えています。
シリーズの中でも特にスケールの大きな舞台立てを採った一冊で、物語の規模感としては前2作よりも大型。映画撮影クルーや島の関係者など登場人物も増え、読み応えのある長編に仕上がっています。本格ミステリとしての構造は、シリーズおなじみの「怪奇現象を論理で日常に引き戻す」フォーマット。「島が消える」という派手な不可能を、最終的にはきちんと論理で着地させる手つきが見どころです。
岩崎三姉妹のキャラクターの描き分けも本書では一段と楽しめるところ。長女・亜衣の語り手としての視点、真衣・美衣との掛け合い、夢水清志郎との家族のような関係——シリーズ常連のキャラクターたちが、孤島という非日常の舞台でどう動くかが読みどころの一つです。
講談社青い鳥文庫で容易に入手でき、Kindle 版もあります。シリーズ第1作『そして五人がいなくなる』、第2作『亡霊は夜歩く』を読んできた方には、自然に本書へ進める一冊。孤島ものが好きな方、不可能犯罪・大規模消失系のミステリが好きな方、児童向けと侮らずに本格ミステリを楽しみたい大人にも届く一冊です。